2015年08月18日
イヤホンで音楽を聴きながら「自転車」運転
イヤホンで音楽を聴きながら自転車を運転していたとき、横断歩道をわたっていた
高齢女性をはねて死亡させたとして、男子大学生(19)が8月上旬、重過失致死の
疑いで書類送検された。
報道によると、大学生は今年6月上旬、千葉市稲毛区の路上で、青信号の横断歩道を
わたっていた歩行者の女性(77)を自転車ではねて死亡させた疑いが持たれている。
当時、大学生はイヤホンで音楽を聞きながら運転していた。また、自転車のスピードは
時速20~30キロ程度だったとみられ、赤信号を見落とした疑いが強いという。
警察の調べに、大学生は「下を向いて前をよく見ていなかった」などと供述したという。
今回のケースでは、事故の原因になりそうな行為がいくつかある。それぞれの行為は、
大学生の責任にどのような影響を及ぼすのだろうか。
自転車事故の責任について、好川久治弁護士に聞いた。
●刑事的にはどうなるのか?
「自転車事故によって人を死亡させた場合、『重過失致死罪』(刑法211条)に問われます。
報道によると、今回の自転車事故の直接の原因は、大学生が『タイヤや路面の状態を
見ていて前を見ていなかった』ことにあるようです。
つまり、大学生が重過失致死に問われる主な根拠は、(1)自転車のタイヤや路面の状態に
気を取られ、前方の安全確認不十分なまま自車を進行させたこと、(2)これによって、
横断歩道をわたっていた高齢女性の発見が遅れて、自転車を衝突させてしまったことに
あります」
具体的には、どのような行為が責任の根拠となるのだろうか。
「自転車の運転者は、道路交通法により、『ハンドル、ブレーキその他の装置を確実に
操作し、かつ、道路、交通および当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような
速度と方法で運転しなければならない』という義務(安全運転義務)を負っています。
今回のケースでは、こうした安全運転義務に違反したといえます。
また、時速20~30キロとスピードが出ていた点もポイントになります。もし仮に、もっと
ゆっくり走っていれば、被害者との接触を避けられたり、死亡にまで至らなかったりという
事情があれば、責任の根拠となりえます」
●イヤホンで音楽を聞きながら運転していた点は?
今回のケースで、イヤホンで音楽を聞いていた点は考慮されるのだろうか。
「イヤホンで音楽を聞きながら自転車を運転することは、たしかに、『安全な運転に必要な
音声が聞こえないような状態』で運転しないことという道路交通法施行規則に違反する
可能性があります。運転者の行為としては非難されるべきです。
しかし、死亡事故との関係では、(a)周囲の音が聞こえず注意散漫となって信号を
見落とした(b)被害者の発見が遅れた、という因果の流れが立証できないと、責任の
根拠とするのは難しいでしょう。
また、信号無視についても、わざと赤信号を無視したのであれば、責任の根拠となりえます。
ですが、今回のケースは、『下を向いて運転していたので、赤信号に気付かなかった』と
いうことのようですから、信号無視自体を根拠としにくいでしょう。
もちろん、これらの行為も道路交通法に違反しますので、遵法意識が鈍っていたという
点で、大学生にとって不利な情状として考慮されることはあります。
今後、大学生は、検察庁の捜査を経た後、家庭裁判所に送致され、保護処分に付するか
どうかが決められます。これらの違反の事実は、その際の家庭裁判所の判断に影響を
与えるでしょう」
●「3000万円~4000万円の賠償責任」が発生する可能性も
今回の事故では、被害者の女性が亡くなっている。大学生は被害者の遺族に対して、
どのような責任があるのだろうか。
「大学生は、刑事事件の問題とは別に、民事で被害者の遺族に対して損害賠償責任を
負わなければなりません。
具体的には、死亡までの治療費や入院付添費、入院雑費、入院慰謝料、葬儀費用、
死亡による将来の逸失利益(生きていれば得られたであろう利益)、死亡による慰謝料、
遺族固有の慰謝料などです。
被害女性は高齢ですが、彼女に責任のない事案ですので、大学生は3000万円~4000万円の
賠償責任は覚悟しなければならないでしょう」
このように述べたうえで、好川弁護士は次のように注意喚起していた。
「自転車が関与する交通事故が全体の2割近くを占め、加害者となる事故も毎年2万件近く
発生しています。被害者の救済のためにも、自転車を運転する機会の多い方は、対人賠償
責任保険に加入しておくべきでしょう」
本日の担当:御殿場店 鈴木 (弁護士ドットコム)
高齢女性をはねて死亡させたとして、男子大学生(19)が8月上旬、重過失致死の
疑いで書類送検された。
報道によると、大学生は今年6月上旬、千葉市稲毛区の路上で、青信号の横断歩道を
わたっていた歩行者の女性(77)を自転車ではねて死亡させた疑いが持たれている。
当時、大学生はイヤホンで音楽を聞きながら運転していた。また、自転車のスピードは
時速20~30キロ程度だったとみられ、赤信号を見落とした疑いが強いという。
警察の調べに、大学生は「下を向いて前をよく見ていなかった」などと供述したという。
今回のケースでは、事故の原因になりそうな行為がいくつかある。それぞれの行為は、
大学生の責任にどのような影響を及ぼすのだろうか。
自転車事故の責任について、好川久治弁護士に聞いた。
●刑事的にはどうなるのか?
「自転車事故によって人を死亡させた場合、『重過失致死罪』(刑法211条)に問われます。
報道によると、今回の自転車事故の直接の原因は、大学生が『タイヤや路面の状態を
見ていて前を見ていなかった』ことにあるようです。
つまり、大学生が重過失致死に問われる主な根拠は、(1)自転車のタイヤや路面の状態に
気を取られ、前方の安全確認不十分なまま自車を進行させたこと、(2)これによって、
横断歩道をわたっていた高齢女性の発見が遅れて、自転車を衝突させてしまったことに
あります」
具体的には、どのような行為が責任の根拠となるのだろうか。
「自転車の運転者は、道路交通法により、『ハンドル、ブレーキその他の装置を確実に
操作し、かつ、道路、交通および当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような
速度と方法で運転しなければならない』という義務(安全運転義務)を負っています。
今回のケースでは、こうした安全運転義務に違反したといえます。
また、時速20~30キロとスピードが出ていた点もポイントになります。もし仮に、もっと
ゆっくり走っていれば、被害者との接触を避けられたり、死亡にまで至らなかったりという
事情があれば、責任の根拠となりえます」
●イヤホンで音楽を聞きながら運転していた点は?
今回のケースで、イヤホンで音楽を聞いていた点は考慮されるのだろうか。
「イヤホンで音楽を聞きながら自転車を運転することは、たしかに、『安全な運転に必要な
音声が聞こえないような状態』で運転しないことという道路交通法施行規則に違反する
可能性があります。運転者の行為としては非難されるべきです。
しかし、死亡事故との関係では、(a)周囲の音が聞こえず注意散漫となって信号を
見落とした(b)被害者の発見が遅れた、という因果の流れが立証できないと、責任の
根拠とするのは難しいでしょう。
また、信号無視についても、わざと赤信号を無視したのであれば、責任の根拠となりえます。
ですが、今回のケースは、『下を向いて運転していたので、赤信号に気付かなかった』と
いうことのようですから、信号無視自体を根拠としにくいでしょう。
もちろん、これらの行為も道路交通法に違反しますので、遵法意識が鈍っていたという
点で、大学生にとって不利な情状として考慮されることはあります。
今後、大学生は、検察庁の捜査を経た後、家庭裁判所に送致され、保護処分に付するか
どうかが決められます。これらの違反の事実は、その際の家庭裁判所の判断に影響を
与えるでしょう」
●「3000万円~4000万円の賠償責任」が発生する可能性も
今回の事故では、被害者の女性が亡くなっている。大学生は被害者の遺族に対して、
どのような責任があるのだろうか。
「大学生は、刑事事件の問題とは別に、民事で被害者の遺族に対して損害賠償責任を
負わなければなりません。
具体的には、死亡までの治療費や入院付添費、入院雑費、入院慰謝料、葬儀費用、
死亡による将来の逸失利益(生きていれば得られたであろう利益)、死亡による慰謝料、
遺族固有の慰謝料などです。
被害女性は高齢ですが、彼女に責任のない事案ですので、大学生は3000万円~4000万円の
賠償責任は覚悟しなければならないでしょう」
このように述べたうえで、好川弁護士は次のように注意喚起していた。
「自転車が関与する交通事故が全体の2割近くを占め、加害者となる事故も毎年2万件近く
発生しています。被害者の救済のためにも、自転車を運転する機会の多い方は、対人賠償
責任保険に加入しておくべきでしょう」
本日の担当:御殿場店 鈴木 (弁護士ドットコム)
Posted by 保険カンパニー at
09:39
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