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2014年07月02日

うつ病の“怪しい診断書” 経営効率化、売り上げ重視の医師も?!

「気分が落ち込んで、会社に行けなくなってしまいました。休職したいので、診断書を出してください」

最近、初診のときからこのように要望される患者さんが多くなりました。精神科の医師としては、
「こういう症状があって辛いので、何とかしてほしい」という依頼を受け、まず診察・治療を行うのが
通常のステップだと私は考えています。それだけに、すぐに診断書を欲しがる患者さんとの
意識のギャップに、戸惑いを隠せません。

そうした背景には「うつ」に対する考え方の変化があるようです。
従来は「大うつ病」といい、意欲や活動性が極端に低下し、罪責感や時には死を願う気持ちを強く
持つような重篤な状態となって初めて精神医療の対象となりました。それが近年は、たとえば
「気分変調症」といって、そう激しくはない気分の落ち込みが長く持続するような状態も、疾患の範疇に
含まれるようになったのです。
しかし、重篤感のない気分の変動までも医師が「病気」として扱うことは、時には患者さんが人生の課題に
対峙する機会を奪うことにもつながります。医師は診断をつける際には慎重であるべきです。

また、10年ほど前からは「新型うつ」の概念も定着してきました。自分の好きな仕事や活動のときは
元気な一方で、それ以外のときは極端に気分が落ち込んでしまうのが大きな特徴です。また、自責感に
乏しく、他罰的で、何かあると会社や上司のせいにしたがります。ですから、休職することにあまり
抵抗感や罪の意識を持ちません。この新型うつに関しては多くの学者がいろいろな説を発表していて、
病気と扱わない立場の医師もいるほどです。

しかし、うつ病の概念が広がりを見せるのと歩調を合わせて、うつ病を含む気分障害の患者数が急増して
いるのも事実で、厚生労働省の「患者調査」によると、1996年に43万3000人だったものが、
2008年には104万1000人と2.4倍にもなりました。
しかしながら、休職することにほとんど抵抗感を抱かず、初めから休職の診断目的で受診するタイプの方が、
そのなかには相当数含まれていると推測することもできそうです。

加えて見過ごせないのが、精神科を標榜するクリニックの増加です。
特に増えているのが、東京、大阪、神奈川、千葉などの都市部です。現在の日本の医療システムでは、
昨日まで内科医だった医師でも、今日から精神科の治療ができます。精神科の専門医とか精神保健指定医で
なくても、医師が希望すれば自分のクリニックを精神科として標榜し直すことも可能なのです。
都市部では競争相手の多い診療科をやめて精神科を標榜し直し、経営の効率化を第一に考える医師が、
少なからず紛れ込んできているようです。

実際に私が見聞した例に、治療に必要な休職期間を2カ月に区切って診断書を出している精神科の
クリニックがありました。通常、うつ病が回復するまでには3~6カ月の期間を要します。当然、
2カ月たった時点では、まだ回復していない公算が大きいわけです。
そのとき「休職期間が切れてしまうから、もう1回診断書を出しておきましょうか」といって、改めて
診断書の料金を請求しようというのでしょうか。実はクリニックの経営効率化、売り上げ重視という点で、
健康保険制度による弊害も生まれています。

こうした精神医療の現場のことがわかってくると、部下が持ってきた診断書に対して「本当にきちんと
診断したものなのか」「休職した後、ちゃんと治療を行ってくれる医師なのか」と疑問に思う上司の方も
出てくるでしょう。初診で出された診断書だとわかったら、なおさらのことだと思います。

正直にいって現在の精神科の医療現場では、クリニックや医師によって診察や治療のクオリティーに
かなりばらつきがあるのが現状です。1年間も治療を受けていたのに、なかなか回復の兆しが
見えてこなかったうつ病の患者さんが「どうしてなのか」と医師に問いただしたところ、当の医師が
「本来、私は内科が専門で、精神科は専門外だから」といって、その後、私たちのような精神科の専門の
クリニックに丸投げしてきたこともありました。

そして、いまビジネスパーソンのうつ病の治療に当たっての大きなポイントになってきているのが、
会社との連携です。
精神科の医療現場で、患者さんが医師に伝える話のすべてが真実ではありません。「会社にちゃんと
行っています」といっても、実は長期間にわたって休んでいたり、逆に「会社に行けない」といっているけど、
勤怠を問い合わせたら欠勤がなかったりということがあるのです。ですから医師が正しい診断を下して
治療を行うためには、上司や人事の方、そして産業医を含めた連携が必要不可欠なわけです。

職場の上司には「君はそう思うんだね」と傾聴はしても、安易に同意しない冷静な対応が求められます。
際限のない要求に関して、時には会社のルールに照らしながら「組織としてできない」と毅然とした姿勢を
示すことも必要でしょう。腫れ物にさわるような対応ではなく、ごく普通に接することが本人のためになる
ケースがあることも覚えておいてください。


本日の担当:沼津店 坂倉 (産経新聞より抜粋)  


Posted by 保険カンパニー at 09:30Comments(0)